学外研修のすすめ

更新日 2017.11.6

平成13年卒
古矢 丈雄

はじめに

 

 私はこれまでに学会や財団、大学の研修プログラムに採択いただいて千葉大学の学外で研修する機会を何度かいただきました。千葉大整形外科の研修システムは非常に整備されていると思いますし、また関連病院も多くあります。普通に通常の研修プログラムを修了し、関連病院や大学病院にて診療に従事するだけでも、おおよその整形外科学、脊椎脊髄病学の臨床の基礎を習得ことができます。しかしながら、若いうちに勇気を持って一歩外に出てみると、千葉の流儀にはない、斬新な診断法、治療法、研究や生活に触れることができますし、業務への視野が格段に広がります。以下、これまでに私が参加したプログラムを簡単にまとめてみました。この記事が将来、脊椎脊髄病学を専攻したいと考えている若い先生の参考になり、また、留学してみたいなという先生が1人でも現れれば大変嬉しいです。

 

(あくまで一個人の感想ですので、その点はご了承願います)

 

 

私がこれまでに参加した研修プログラム

 

1)日本脊椎脊髄病学会クリニカルフェローシッププログラム (国内長期臨床研修)

 3か月~1 年くらいの期間で国内のトップクラスの病院で臨床研修を行います。私は同門の豊根知明先生(S60卒)、藤由崇之先生(H12卒)の紹介で長崎県佐世保市にある長崎労災病院で1年間、脊椎の臨床研修を行いました。私が赴任したのは医師免許取得後8年目、ちょうど大学院を修了した年です。大学院時代は基礎研究にのめり込みましたが、その分臨床がおろそかとなっており、ちょうど自分の臨床を鍛えるには大変良い機会でした。お話をいただいた後にすぐに家族と相談、ほぼ即答で長崎行きを決め、家族全員で長崎へ向かいました。ホストの小西宏昭先生は大変な人徳者で、私の最も影響を受けている脊椎脊髄外科医の1人です。赴任時は長崎大学、佐賀大学などからのローテーターと同じように一般常勤医として1年間懸命に働きました。年間私のいた2009年は脊椎脊髄手術が年間600-700件くらいで、そのうち300件の手術に入り、200件の手術患者の病棟担当医を行い、100件の執刀を任されました。300件の自筆手術記録は私の脊椎脊髄手術の礎です。ここでの経験により脊椎脊髄病学の基礎を学び、自信も少しつきました。

 外科医としてがんばりたいと考えている若い先生には是非一度は千葉を飛び出して他学のスタイルも学ぶとよいと思います。海外臨床留学は言葉の問題、手洗いの問題、金銭的な問題等いくつかのハードルがあります。国内での研修であれば受け入れ先のフェローに対する考え方や、自身の技量、赴任期間にもよりますが、基本はオブザーバーではなく、真のフェローとして「勤務」します。派遣先では1人の戦力として期待されています。なので、少し全体像がわかってきた、脊椎脊髄病学を志して数年目以降くらいにアプライするのがよろしいかと思います。私は長崎の1年間での臨床経験と、一緒に苦楽を共にした上司の先生、他大学の同じ年頃の先生から受けた影響は計り知れません。このプログラムはかなりお勧めです。

 

 

2)AO Spine Japan Fellowship (海外短~中期臨床研修)

 AO財団が募集する海外施設での臨床研修です。募集要項では研修先はAsia Pacific地域の病院となっておりますが、希望先と交渉すれば欧米の施設でも研修は可能のようです。私は2016年秋に2か月間、オーストラリア、ブリスベンにありますPrincess Alexandra Hospitalで研修を行いました。Fellowshipとありますが、基本的にはObserverであります(手洗いはできました)。ホストのRichard Williams教授は多忙であり、つきっきりで面倒を見てくれる訳ではなく、言葉は悪いですが基本放置であります。しかしながら1日の大半を教授お付きの常勤のFellowと行動を共にするので、かなり実際の診療に入り込んだ研修となります。英語は出来たほうがもちろんよろしいですし (積極的にDiscussionできます)、臨床の知識も豊富なほうが有利です (Fellowに頼りにされます)。私が訪問した時は2人の英国人Fellowが研修に来ておりまして、2人とも私に大変よくしてくれました。2人とも脊椎外科医としてはまだ駆け出しで、私のほうが学年は上でした。赴任早々にFellow2人と私の3人で執り行った夜間緊急手術が非常にうまくいったことから、私は彼らの信頼を勝ち取りまして、その後滞在期間中ずっと親身に面倒をみていただきました。彼らは悩む症例があるたびに私に教えてくれて、意見を求めてくれました(英語の勉強になりました)。2か月間の彼らとの毎日のDebateで、英国とオーストラリアの医療事情、脊椎脊髄外科診療の考え方、手術プランニング、脊髄損傷治療体系への理解が深まりました。カンファレンスでは教授から意見を求められることもあります。その際に的確に自分の意見を述べたり、ネイティブのdiscussionに入っていくことは本当に勇気のいることですし、英語でのコミュニケーション力がつくと思います。彼らはSlangや略語を多用するので何を言っているのかわかりません、私は迷惑承知で「今何て言っていた?」と何度も聞きました。また、2ヶ月と比較的短期間ではありましたが、海外生活を体験できた貴重な機会でした (残念なのは、妻子は日本で仕事や学業があり、単身での赴任であったことです)。

 AO Spineのプログラムは積極性が重要かと思います。英語を用いたコミュニケーションがある程度できて、脊椎の専門用語もある程度知っていて、脊椎臨床の知識もある程度備わった時期での参加がよいと思います。脊椎脊髄病学専門医としてのキャリアをスタートして7、8年~10年前後でのアプライがよろしいかと思います。こちらも海外留学を短期で体験するには絶好の機会です。お勧めです。

 

 

3)日本脊椎脊髄病学会アジアトラベリングフェローシッププログラム (海外短期臨床研修)

 日本脊椎脊髄病学会がオルガナイザーとなり、2人1組でアジア諸国の施設を1週間×2か国訪問する事業です。このプログラムは比較的若い先生向けとなっており、学会ではもう1つVisiting Scholar Programという、指導医レベル向けのプログラムも用意されています。私は2015年に奈良医大の重松英樹先生とインドネシア、韓国を訪問しました。研修内容は渡航先の受け入れ先生次第と思います。インドネシアはどちらかというと表敬訪問といった感じで、異なる関連施設を毎日見て回るご挨拶の旅といった感じでした。韓国は単一施設での手術中心のプログラムで、ほぼ毎日手洗いして手術に参加しておりました。韓国では同年代の先生と若手先生と意気投合し毎晩懇親会を行っておりました。今でも連絡を取り合っており、先日の韓国での学会時には再会を楽しみました。

 本プログラムはここ数年希望者も多く、狭き門となっていると伺っております。選考は業績が加味されますのである程度論文数のある先生でないとなかなか採択されないかもしれません (私も筆頭原著論文は少なく恥ずかしい限りですが)。また、ある程度キャリアを積んで脊椎脊髄の中でも自分の専門が出てきている頃のほうが面白いと思います。私は履歴書で「脊髄」「脊髄損傷」をSubspecialtyとしていると伝えたところ、韓国では訪問した1週間の間に2件も脊髄腫瘍の症例を用意してくれまして、なんと顕微鏡時の第一助手を任されました。インドネシアでは脊髄損傷に対する骨髄間質細胞の移植研究の臨床研究施設も訪問することができました。

 

 

4)千葉大学 Oversea Training Program (海外短期臨床研修)

 千葉大学医学部附属病院がスポンサーとなって、海外施設に見学に行って自己の診療領域の最先端に触れてきましょう、というプログラムです。私はリハビリテーション部の浅野由美先生(H13卒)に誘われて2014年にオーストラリアのアデレードに「大学病院における急性期リハビリテーション」として1週間行って参りました。1週間同じ施設での研修ですので、訪問先の1週間の行事をおおよそ経験できました。同行したリハビリテーション部の若い理学療法士・作業療法士や救急部の看護師、地域連携部の職員の中には海外が初めてという方もおり、このプログラムでの1週間は大変刺激になったことと思います。ホストの Ruth Marshall教授も我々の訪問を非常に歓迎してくださり、オーストラリアの脊髄損傷治療のフローを勉強することができました。

 この研修は1週間であり、また、職種の違う仲間の大所帯での訪問ですので、どちらかというとObserverであり、実際に手足となって働くことはあまりないと思います。ただ、Observerではあっても、積極的に参加すれば得るものは大変多いかと思います。事前に自分の見学したい点を明確にして、先方に伝え調整してもらうことができればさらに有意義な研修になると思います。私は自分がSpine Surgeonであることを伝え、手術見学をリクエストしましたところ、日本ではまだ認可されていない頚椎人工椎間板の手術見学の機会を得たことは大変有意義でした。

 

 

最後に

 

 若輩者の個人の経験で恐縮ですが、私がこれまでに参加したプログラムを概説いたしました。是非とも若い先生がどんどん海外有名施設や国内のメッカの病院に飛び立って、積極的に武者修行を積んで、海外の友人を作り、グローバルな視点を持った医師に育っていただきたいと考えています。

 こういった研修では研修先および千葉大学双方にとって有益となる研修がベストです。訪問先にも千葉の良いところを伝授し、訪問先のよいところを千葉に持ち帰り還元できればよいなと思います。最後になりましたが、このよう度々の不在の許可をいただきました高橋和久前教授、大鳥精司教授、山崎正志現筑波大学教授、國府田正雄筑波大学准教授、歴代医局長に深謝いたします。留守をお願いした脊椎脊髄チーム先生に感謝申し上げます。

 

 

 

・  2009年 日本脊椎脊髄病学会クリニカルフェローシッププログラム(長崎労災病院、長崎県佐世保市)

・  2014年 千葉大学 Oversea Training Program (Royal Adelaide Hospital, Hampstead Rehabilitation center, Adelaide, Australia)

・  2015年 日本脊椎脊髄病学会アジアトラベリングフェローシッププログラム (University of Indonesia, Jakarta, Indonesia / Seoul National University, Seoul, South Korea)

・  2016年 AO Spine Japan Fellowship 2016 (Princess Alexandra Hospital, Brisbane, Australia)