AOSPINE FELLOWSHIP 2019報告記

更新日 2019.11.7

さんむ医療センター
大田 光俊

AOSPINE FELLOWSHIPで9-10月の2ヶ月間、パリのPitié-Salpêtrière Hospitalで研修を行いましたのでご報告いたします。

Pitié-Salpêtrière Hospitalは元のパリ第6大学医学部附属病院で、セーヌ左岸の13区に広大な敷地を有し、現在はソルボンヌ大学グループに属しています。特に神経学において長い歴史があり、我々整形外科医にとっても馴染み深いProf. Charcotが多大な業績を残しています。整形外科も伝統があり、3代前の教授は頚椎外側塊スクリューで名高いProf. Roy-Camilleです。現在は主任教授で脊椎外科医のProf. Moussellardを筆頭にスタッフ14名、インターン6名で構成されています。

今回私のFellowshipはフランス人にとって何よりも大切なバカンス直後の9/1から始まりました。初日はなんと脊椎外科医が全員不在でいきなり休みという拍子抜けの幕開けでしたが、翌日から無事開始となりました。意外にも朝は早く7時45分にミーティングが始まり、前日から当日朝にかけて来院した症例をインターンのDrが呈示します。パリ市内に6つあるTrauma Centerの1つでもあるので多発外傷を含む外傷例が多く、他にも感染や転移性腫瘍などバラエティーに富む内容でした。特に週末をはさんだ月曜日は20例以上の症例がありました。1例に10分以上かけることも多く、フランス人の議論好きがよく分かりましたが、語学面が全く追いつかず内容がほとんど理解できなかったことが大いに悔やまれます。なお私もスタッフ全員の前で発表の機会をいただき、さんむ医療センターの脊椎外科の取り組みを紹介できたことは大きな喜びでした。

手術に関しては事前に手洗いできるのか不明でした。しかし実際には全く問題なく手洗いでき、脊柱管狭窄症の除圧術や変性すべりに対するTLIF、L5/S1のModic TypeⅠに対するALIF、脊椎転移に対する後方除圧固定術、頚椎前方手術、頚椎椎弓形成術、側弯症手術や成人脊柱変形に対する骨切りまで多種多様な手術に入りました。予想に反して頚髄症の症例が多く、椎弓形成術は毎週のように行われていました。色々見た中で最も印象に残ったのは長範囲固定におけるIliosacral screwを用いた骨盤アンカーです。特殊なデバイスを使用してscrew中央部分をコネクターで把持します。これをS2AI screwと併用することで非常に強力な固定力が得られるとのことでした。一方でLLIFやPPSの症例は少なく、除圧術もMD法が1件だけでMISはそこまで普及していません。手術手技に関してはかなりaggressiveで、スクリューは最小限の透視で手早く入れていきます。除圧操作は拡大鏡や顕微鏡なしで鉗子と巨大なスチールバー、ケリソンで豪快に行っており、我が国との違いを感じましたが、特に大きなトラブルなく手術を短時間でこなしていく様子は勉強になりました。

外傷についても簡単に触れておきます。Trauma Centerといっても整形外科に専属のスタッフはおらず、中堅スタッフとインターンで手術をしており、この点は我々と似た環境と感じました。四肢、骨盤、脊椎外傷と多くの外傷手術が行われていますが、橈骨遠位端骨折を含めた手の外科に関しては多発外傷例を除いて他の病院に送るケースが多いとのことであまり目にすることはありませんでした。

生活面も参考までに少しご紹介します。今回家族を伴ってのパリ滞在でした。Airbnbでエッフェル塔近くのアパートメントを借りましたが、花の都の家賃は千葉とは比較にならない高額でした。外食も高価なのでミシュランの星とは無縁でしたが、マルシェ(朝市)で買った新鮮な野菜や肉、魚介類を使って妻が料理の腕をふるってくれたおかげで素晴らしい食生活を送ることができました。中1の長男と小4の長女は日本人学校に一時転校しました。2ヶ月と短い期間ではありましたが学校生活もパリの街も大変気に入ったそうで、かけがえのない経験となった事と思います。またお世話になったDrのご自宅にお招きいただき、心のこもったおもてなしも受けました。休日のパリ観光、モンサンミッシェルへの日帰り旅行、ロンドンやアムステルダムへの1泊旅行も大変に良き思い出になりました。メトロで4人組のスリに危うく貴重品を盗られそうになったのも今となってはいいネタです。

最後になりますが、今回Fellowshipへの参加をご快諾いただいた石川先生、推薦状をお願いした高橋宏先生、AOSPINE関係各位の方、またさんむ医療センターの皆様にこの場を借りて深く感謝いたします。この2ヶ月で学んだことを還元できるよう、精進して参りたいと考えております。