千葉大学整形外科学教室

更新日:2016/04/25(Mon)
診療・研究グループ

腰の病気とは

はじめに
 成人人口の約9%は慢性痛に悩まされており,経済損失は年間約9兆円といわれている。なかでも腰、下肢痛を訴え整形外科を受診する患者さんは,社会の高齢化に伴って年々増加しています。腰痛は人生のうち85%以上のヒトが経験するといわれております。腰、下肢痛を生じる整形外科領域の疾患としては,腰椎椎間板ヘルニア,腰部脊柱管狭窄症,骨粗鬆症,ぎっくり腰、筋肉痛、内蔵疾患などがあり,その他に心因性のものもあります。ここでは腰椎の仕組みと腰痛を引き起こす代表的な疾患を取り上げ,その予防法、治療法を解説します。

1. 腰椎の仕組みと働き
 背骨は頚椎から始まり、尾椎からなります。ヒトは二本足歩行をするようになってから、骨盤の傾きをうまく代償するように背骨が緩やかにS字状のカーブを描いております。背骨の中で腰椎は大きな5つの椎体からなっております。また、この部位には一番大きな衝撃がかかってきます。これらを支えるのが椎体と椎間板というクッションです。椎体は外側が強い皮質骨で卵の殻のようになっており、中は蛛の巣状の海綿骨からなります。椎間板はバームクーヘンのような弾力性のある年輪状の構造物と中にゼリー状の髄核が入っています。これらが腰痛の発生に大きく関与しています。腰痛はヒトに生まれた宿命であり、先ほど申し上げましたように大部分のヒトが経験します。ですから、充分に腰椎の仕組みと病気を理解してうまく付き合っていくことが大事でしょう。

   脊椎は脳から続く脊髄や神経根など大事な神経を守っています。この部分は可動性がありますので、体を前後に曲げたり横に曲げたり、捻ったりすることが可能となります。病気になりやすいのは第3腰椎から第5腰椎にかけてで、その理由はこの部分の動きが大きく一番ストレスを受けやすいからです。また第11胸椎から第1腰椎にかけてはS字の中間点にありここもストレスを受けやすくなっております。骨粗鬆症の圧迫骨折はここに発生します。因みに、第4腰椎と第5腰椎のレベルが丁度ベルトをする骨盤の骨の位置なのでこれを目安に考えてください。

   腰椎の中には脊柱管という空間があり馬尾、神経根という神経が通っています。一つ一つの腰椎の孔から出て、坐骨神経となって足先までいっております。これらの神経は下肢を動かしたり(運動神経)、感覚を脳に伝えたり(感覚神経)、排尿や排便をつかさどる神経に分けられます。したがって腰椎に病気があると腰痛にもなりますが、下肢の痛み、痺れ、運動障害、排尿障害等が出てきます。また障害されているのがどの神経根かによって、症状の出方が違います。例えば、一番症状を起こしやすい神経根は第5腰椎の孔から出る神経根ですがこの場合は、腰痛から殿部の痛み(坐骨神経痛)、膝下外側の痛み、母趾の筋力低下などを生じます。

 一般の方々が最も勘違いしやすい点は、腰が痛い=腰椎椎間板ヘルニアと考えやすい点です。一般に腰椎椎間板ヘルニアや、腰部脊柱管狭窄症は神経根を圧迫する病気なので腰痛よりはむしろ下肢痛、痺れをきたすことが多い点に注意しましょう。

   これらの脊椎の周りには腹筋や背筋などの筋肉があります。更に腹側には消化器、子宮などの臓器があります。年齢によって筋肉が衰えてくると腰痛の原因になります。また、消化器や産婦人科領域の病気でも腰痛を起すことが知られており、我々も見逃さないよう十分注意しております。

2. 腰の病気と治療
腰痛よりむしろ下肢痛、痺れとなって現れる病気
腰椎椎間板ヘルニア
   椎間板の外側の線維輪はバームクーヘンのような年輪状の構造となっており,何らかの原因によって線維輪に亀裂が生じると,中心部分の髄核が飛び出して膨隆します。それにより椎間板が後方に突出し,神経根を圧迫しますが、この病態が腰椎椎間板ヘルニアです。腰椎椎間板ヘルニアでは,もちろん腰痛を訴えることもあるが,基本的には神経根障害であり,臀部から下腿にかけての疼痛が主体となります。急性期は斧で下肢を切られる痛みと称されます。ヨーロッパで発見されたアイスマンというミイラの解析ではこの頃より椎間板ヘルニアはあったとされ、日本の縄文時代に相当する歴史があります。

腰椎椎間板ヘルニアの原因として,遺伝的素因(椎間板ヘルニアになりやすい遺伝子が色々と見つかっています),肉体労働などによる腰部への過剰な負荷,生活習慣(タバコが一番悪い)など,さまざまな要因が挙げられており,総合して発症すると考えられています。好発年齢は基本的には20~40歳ですが、小中学生などの若年性ヘルニア、60~75歳という高齢者の椎間板ヘルニアもあります。診断は殆どの場合医師の診察とMRIでわかります。
治療法は保存治療が第一です。最近の研究で8-9割の患者さんでは椎間板ヘルニアになっても、自らの免疫力でその椎間板ヘルニアが2-3ヶ月以内に消滅することが分かっています。たとえば風邪をひいたときの防御反応として,マクロファージが風邪のウイルスを貪食するように,マクロファージが椎間板ヘルニアも食します。その間は一般の消炎鎮痛剤の内服、湿布、ブロック療法、運動療法にて対処するのが望ましいでしょう。消炎鎮痛剤は二種類ありロキソプロフェンなどの短時間作用型は,急性期激しい疼痛に対して即効性があると思われ、一方で選択的COX-2阻害薬メロキシカムは,胃腸障害をはじめとした副作用が少ないというメリットがあり長期間継続投与が可能でしょう。

よく、冷たい湿布、暖かい湿布どちらがいいでしょうかと聴かれますが、外傷などでは冷たい湿布がいいでしょう。しかし、腰痛疾患に対しては、どちらでもいいと思います。基本的な成分は変わりがなく、暖かい湿布には少量のトウガラシの成分が含まれています。皮膚から吸収されて患部に届くまでには同じ消炎鎮痛の成分が移行するので、ご本人の好みでどちらでもいいでしょう。

以上のように、椎間板ヘルニアの手術を受けられる方は、それよりも早く社会復帰を希望される方、3ヶ月以上経過しても椎間板ヘルニアが消滅しないで痛みが残っている方に限定されているのが現状です。ただし手術療法を選択しても、椎間板の出っ張り(ヘルニア)を取る手術なので椎間板本体は残存します。そのために椎間板ヘルニアの再発は5-8%の患者さんに発症すると考えられています。

手術方法は通常の手術法、内視鏡手術などです。内視鏡は創が小さいメリットがありますが、視野が狭いための合併症が若干多くなります。しかしながら両者の手術成績は全く変わりませんので、よく担当医師と相談して決めるのがいいでしょう。また、最近レーザー治療がありますが保険は利用できず、有効性は60%と考えられております。十分に担当医師と相談されることが望ましいでしょう。

腰部脊柱管狭窄症
 この病気は、TVアナウンサーのみのもんた氏が手術を受けられたことから非常に有名になりました。歴史的にはこの病気が始めて報告されてのが1950年ですから、最近非常に多くなった病気と考えられております。腰部脊柱管狭窄症は,神経が入っている脊柱管がさまざまな原因で狭くなり,その中に包まれている馬尾,神経根が慢性的に絞扼され,神経症状が生じた状態です。後方で骨と骨をつないでいる黄色靭帯が加齢とともに厚くなり,前方から椎間板が少しずつ盛り上がることによって脊柱管が狭くなることが多いです。通常,腰や下肢などの安静時痛は少なく,特徴的な症状は間欠跛行であり,歩き始めは無症状であるが,数百mほど歩行すると下肢の疼痛,しびれにより歩行不可能となり,休憩が必要となります。腰を前に曲げると症状がよくなるのを特徴としています。ですから、ショッピングカーと共に歩くとか、自転車などは乗れることが多いです。
 腰部脊柱管狭窄症は遺伝的素因、加齢によるものがほとんどで,55~80歳代という高齢者に多くみられます。高齢社会を迎えて,寿命が延びたことによって脊柱管狭窄症も増えてきており,大学病院の整形外科における腰椎の手術症例90%以上は脊柱管狭窄症です。診断は前述どおり、殆どの場合医師の診察とMRIでわかります。

 椎間板ヘルニアと同じですが、前述の基本的な保存療法に加え,圧迫されている神経への血管拡張と血流量の増大を期待して,プロスタグランジンE1製剤を用います。椎間板ヘルニアより症状が遷延するため、よく患者さんから将来治りますかと質問を受けます。大規模な研究が無いのでなかなかお答えしにくいのですが、様々な研究から、保存療法のみで対処した場合、3分の1の方は完治し、3分の1の方は不変、残りの3分の1の方は悪化するといわれております。いずれにせよ、保存療法が第一選択です。

 手術ですが、内視鏡を用いた手術と、従来の手術法があります。椎間板ヘルニアに比較して、内視鏡手術は難しく、適応も限られてくるので現段階では従来法が主流であります。担当の医師と相談されることをお勧めいたします。手術で85-90%の症状は取れますが、足首以下や足裏の痺れなどは取れないことが多いといわれています。
主に腰痛を主訴とする病気
骨粗鬆症と圧迫骨折
   骨粗鬆症は女性に多くみられ、女性が閉経を迎えることによってホルモンバランスが崩れ、いわゆる骨を壊す破骨細胞の機能が活性化され,骨を作る骨芽細胞と破骨細胞がアンバランスになることで、徐々に骨量が減少していく疾患です。若い人の骨の量の70%以下になった場合に骨粗鬆症といいます。レントゲンを見慣れた医師の場合どの部位のレントゲンからも骨粗鬆症の有無は大体分かります。正確に調べる場合は、様々な検査法があるが、一番簡単な方法は手のレントゲンを撮る方法です(MD法)。これよりの正確な方法は腰椎や大腿骨の骨を調べるDEXA法でが、全ての病院にあるわけではありません。最近では採血や、尿検査で、骨を作る骨芽細胞と骨を壊す破骨細胞の値も簡単に知ることが出来ますので、投薬の目安となります。

 基本的には50歳以上の女性に多いですが,若い人でもたとえば膠原病などでステロイドを使っていると骨粗鬆症になりやすいです。もちろん加齢により骨量が減少するため,男性にもみられる疾患です。骨粗鬆症による腰痛は,ほとんどの場合が圧迫骨折に基づくものです。レントゲン所見で骨粗鬆症が認められ腰痛を訴える患者さんは多数みられますが,圧迫骨折がみられない骨粗鬆症で腰痛が生じるかどうかは明らかにされておりません。

 骨粗鬆症治療薬としてエストロゲン,ビスフォスフォネート,活性型ビタミンKなどが挙げられます。ビタミンKは納豆に含有されていますが、納豆の消費が少ない西日本では骨折の発生頻度が高いことが報告されています。最近では骨量増強効果を期待してビスフォスフォネートを使うことが多いです。これは骨を壊す破骨細胞を抑制します。朝一回の内服であり、最近では一週間で一回錠も発売されました。但し、内服によって骨量が若い人と同じくらいになることは無く、年間で数%の増大です。骨粗鬆症に基づく圧迫骨折による疼痛に対しては、軟性コルセットの装着とともに, 消炎鎮痛剤やカルシトニン製剤を投与します。もちろん予防としてバランスのよい食事、適度な運動は重要な治療で、多量の飲酒、コーヒーの多飲、喫煙がよくないことは言うまでもありません。
ぎっくり腰
   いわゆる、魔女の一撃といわれるのがぎっくり腰です。非常に強い腰痛を訴えます。皆様も一度は経験あるのではないでしょうか。これほど古典的で日常的な病気にもかかわらず病態が分かっていない不可解な病気です。一般にはバームクーヘン状の椎間板にほんの少しだけ亀裂が入った状態と考えられています。椎間板の表層にも細かい神経が網の目のようにあり、亀裂が生じた部分から腰痛の生じていると最近考えられています。何もしないでも一週間で修復され、治癒するので、患部に湿布を貼り、消炎鎮痛剤の内服、腰椎サポーターで十分でしょう。
脊椎の周囲から来る腰痛(筋肉、内臓など)
 年齢と共に腹筋や背筋の筋力が落ち、体の姿勢が悪くなってきます。腰痛の原因となります。MRIなどを撮影すると、筋力の低下は確認することが出来ますが、一般にそこまで検査をすることはまれです。また、内臓疾患、特に女性は子宮、卵巣の病気が腰痛、下肢痛を起すことがあり、腰に問題が無い場合も遷延する場合はよく主治医と相談することが重要です。

コラム(1)
患者: 
先生最近腰痛が酷いです。
医師: 
分かりました。レントゲンとMRIを撮りましょう。
患者: 
どうですか?
医師: 
大きな異常はありません。様子を観ましょう。
患者: 
でも、なぜ痛いんですか?
チェックポイント1 病名が判らない腰痛のほうが多いのです。
 椎間板変性は10歳代から始まるとされ、20歳以上の方の健康成人のMRIを撮ると,おそらく90%以上は椎間板の変性が認められると思われます。アメリカの研究で全く腰痛を経験していないヒトのMRIでも、約3分の1に椎間板の異常を認めています。また圧迫骨折のない骨粗鬆症だけで、腰痛になるという証拠も無く、したがって下肢痛が無い(神経根の刺激症状のない)腰痛だけの場合、腰痛の発生源を画像所見で特定することは困難です。しかし、このような検査が行われるのは重大な疾患を見逃さないためです。それは細菌の感染や癌等です。我々の日常診療で、この二つは特に見逃してはいけない疾患と考えています。そのためにこのような検査は重要となっています。 したがってこのような疾患以外の場合は良性疾患なのであまり心配せずに気長に治すのがいいでしょう。
 長時間にわたる立ち仕事などにより,筋肉が疲労すると腰痛が起こりますが、これは画像にて捉えることは出来ません。また、腰痛症のうち一部の方は心因性といわれています。心因性腰痛の診断は非常に難しく、うつ状態、人間関係、社会的ストレスなどが原因とされています。このような心因性の慢性腰痛は社会問題となっており、時に心療内科的な治療や、抗うつ薬が効果的であることがあります。

コラム(2)
患者: 
先生最近腰痛で困っています。腰痛に良くないこととは何ですか?
医師: 
そうですね。あまりはっきりしたことはいえないのですがね。
患者: 
そんな無責任な。
チェックポイント2 腰痛にいいことは適度な運動と、健全な心身と食生活でしょう。
 急性期の腰痛の場合は安静が必要でしょうが、基本的に安静にしていると、関節が固くなり下肢の血栓症の危険が増大するため推奨されておりません。なるべくなら動いたほうがいいといわれております。慢性腰痛の場合、牽引や理学療法、温熱の有効性は十分には報告されておらず、歩行やプール、腹筋体操等の運動療法が推奨されております。これは椎間板ヘルニア、腰部脊柱管狭窄症でも同じです。椎間板に針を刺して様々な姿勢で椎間板の圧を測った結果、立っているよりも、座っているほうが椎間板に圧力がかかり、腰痛にはよくないとされています。またベッドに関してですが、慢性腰痛の患者さんに5つの固さのベッドを使用させてみたところ、一番固いベッドではなく、真ん中の固さのベッドが腰痛に有効であったと報告されておりますので、基本的にはご自身にあったベッドをご使用ください。コルセットについては基本的に3種類あり、プラスチックで出来た硬性コルセット、布と支柱で作られた軟性コルセット、布だけで出来ているサポーターです。椎体の骨折、脊椎手術後などには硬性コルセット、軟性コルセットを使用します。慢性腰痛、椎間板ヘルニア、脊柱管狭窄症には軟性コルセット、腰サポーターで十分でしょう。はっきりと規定がある訳ではありません。膝痛や腰痛へのヒアルロン酸内服は最近の話題ですが、明確なエビデンスは無く今後の研究が期待されております。最後に生活習慣ですが、過度のアルコール、喫煙、肥満、重労働などは腰痛になりやすい事が多く報告されております。ご注意を。