椎間板の外側の線維輪はバームクーヘンのような年輪状の構造となっており,何らかの原因によって線維輪に亀裂が生じると,中心部分の髄核が飛び出して膨隆します。それにより椎間板が後方に突出し,神経根を圧迫しますが、この病態が腰椎椎間板ヘルニアです。腰椎椎間板ヘルニアでは,もちろん腰痛を訴えることもあるが,基本的には神経根障害であり,臀部から下腿にかけての疼痛が主体となります。急性期は斧で下肢を切られる痛みと称されます。ヨーロッパで発見されたアイスマンというミイラの解析ではこの頃より椎間板ヘルニアはあったとされ、日本の縄文時代に相当する歴史があります。
腰椎椎間板ヘルニアの原因として,遺伝的素因(椎間板ヘルニアになりやすい遺伝子が色々と見つかっています),肉体労働などによる腰部への過剰な負荷,生活習慣(タバコが一番悪い)など,さまざまな要因が挙げられており,総合して発症すると考えられています。好発年齢は基本的には20~40歳ですが、小中学生などの若年性ヘルニア、60~75歳という高齢者の椎間板ヘルニアもあります。診断は殆どの場合医師の診察とMRIでわかります。
治療法は保存治療が第一です。最近の研究で8-9割の患者さんでは椎間板ヘルニアになっても、自らの免疫力でその椎間板ヘルニアが2-3ヶ月以内に消滅することが分かっています。たとえば風邪をひいたときの防御反応として,マクロファージが風邪のウイルスを貪食するように,マクロファージが椎間板ヘルニアも食します。その間は一般の消炎鎮痛剤の内服、湿布、ブロック療法、運動療法にて対処するのが望ましいでしょう。消炎鎮痛剤は二種類ありロキソプロフェンなどの短時間作用型は,急性期激しい疼痛に対して即効性があると思われ、一方で選択的COX-2阻害薬メロキシカムは,胃腸障害をはじめとした副作用が少ないというメリットがあり長期間継続投与が可能でしょう。
よく、冷たい湿布、暖かい湿布どちらがいいでしょうかと聴かれますが、外傷などでは冷たい湿布がいいでしょう。しかし、腰痛疾患に対しては、どちらでもいいと思います。基本的な成分は変わりがなく、暖かい湿布には少量のトウガラシの成分が含まれています。皮膚から吸収されて患部に届くまでには同じ消炎鎮痛の成分が移行するので、ご本人の好みでどちらでもいいでしょう。
以上のように、椎間板ヘルニアの手術を受けられる方は、それよりも早く社会復帰を希望される方、3ヶ月以上経過しても椎間板ヘルニアが消滅しないで痛みが残っている方に限定されているのが現状です。ただし手術療法を選択しても、椎間板の出っ張り(ヘルニア)を取る手術なので椎間板本体は残存します。そのために椎間板ヘルニアの再発は5-8%の患者さんに発症すると考えられています。
手術方法は通常の手術法、内視鏡手術などです。内視鏡は創が小さいメリットがありますが、視野が狭いための合併症が若干多くなります。しかしながら両者の手術成績は全く変わりませんので、よく担当医師と相談して決めるのがいいでしょう。また、最近レーザー治療がありますが保険は利用できず、有効性は60%と考えられております。十分に担当医師と相談されることが望ましいでしょう。