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名誉教授の独り言(186) 栃ノ心の大関昇進は日本の整形外科医療の勝利です。

更新日 平成30年5月27日

 膝には4つの大きな靱帯がありますが、その内、前十字靭帯は膝の中にある靱帯で大腿骨に対し脛骨が内旋しながら前方にずれるのを抑える靱帯です。外力が強すぎたり、体重が靱帯の強さより重かったりすると断裂してしまいます。前十字靱帯を断裂したまま相撲を続けると半月板損傷が続発することがしばしばあります。お相撲さんの膝前十字靱帯断裂は比較的多い怪我です。

 私の記憶では小錦が全盛期の1986年(昭和61年)5月場所で北尾が勝ち、その時のマスコミ報道では決まり手はサバ折りでしたが、小錦の右膝が中に入ったという事で、私は当時、膝の前十字靭帯断裂治療の日本でのトップランナ―でしたので、TVでその取り組みを見て、すぐに前十字靭帯断裂を疑いました。その後、小錦は半月板損傷を続発し、横綱にはなれずに引退しました。

 その後、故あって私は横綱審議委員に推薦され任期10年の最後の2年間は委員長を務めさせてもらいました。昨年1月場所終了後に任期10年を満了しましたが、その場所で稀勢の里が優勝してくれて横綱に推薦しました。

 現在私は平成30年5月場所で栃ノ心が大関昇進を決めたことを大変嬉しく思っています。彼の5月場所での大活躍は日本人に深く共感を呼び、大変盛り上がりました。と同時に今後相撲界は力士の怪我をどのように捉えていくか関心のあるところです。

 現在は琴奨菊、安美錦、照の富士、宇良など多くの力士が前十字靭帯断裂、半月板損傷などで苦しんでいます。

 安美錦、琴奨菊らは装具で不安定性を少なくして頑張っていますが、今回の栃ノ心が手術を受け、幕内優勝もし、その後に大関昇進を決めたことを考えると、手術を受けるのも一案だと思います。昔は土俵の怪我は土俵で治せと言われていたようですが、時代は変わっています。

 かつて照の富士が関脇2場所で大関になったころに当時理事長だった 北の湖さんに「照の富士関は何時ごろ、横綱になりますか?」と聞いたことがあります。答えは「うーん、難しいですね。このまま今の相撲を取っていると膝を痛めるかもしれません」というお答えでした。その通りになってしまい、今後どうなるか心配しています。

 相撲界では、しこ、鉄砲、摺足だけが怪我の予防につながると言っているようですが、今後は科学を採用し、前十字靭帯損傷の受傷機転の分析、治療法の解析などをすべきと考えています。

 栃の心は幕下に陥落した時に、自分で前十字靭帯損傷について勉強し、手術(再建術)を受けたいと春日野親方に申し出たようです。術後幕下55枚目まで落ちた後に頑張って術後リハビリを行い、また復活したようです。どなたが手術をしたのかは存じませんが、力士が自発的に手術を受け、術後に復活したという事は日本の整形外科のレベルがそれだけ高くなったと勝手に思っています。今後は前十字靭帯損傷で苦しんでいる力士の方々が積極的に再建術を受けてくれることを熱望しています。