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第27回 スポーツクライミングに関わって -六角 智之

更新日 2017.7.11

千葉市立青葉病院 整形外科
六角 智之

 おそらくこのコラムに寄稿させていただく最年長、S63卒の六角智之です。
今回は主に私がスポーツクライミングに関わることになった経緯をお話したいと思います。

 私自身は小学校から大学卒業まで体操競技を続け、一時は体育大学進学まで考えておりました。医師になってから1年目はすっかり運動する機会を失い何か継続できるスポーツを探していたところ、研修2年目にもう一つの趣味であった山登りを通じてクライミングに出会うことになりました。全身を使うこのスポーツは体操に通じるものが感じられてすぐにのめり込んでしまいました。一方、整形外科における専門は入局当初はスポーツ医学も候補のひとつだったのですが、紆余曲折を経て手外科を専門に選ぶことになりました。その後しばらくは趣味としてクライミングを続け、臨床では手外科を極めるべく日々を送っておりました。正直、この時期はスポーツ医学に関しては全く興味がなかったと言っていいと思います。2010年の千葉国体開催に向けて山岳競技の準備委員会として千葉県フリークライミング協会が設立され、その準備委員として仕事を始めたのがこの競技運営に関わるきっかけでした。ここから私の人生が大きく変化します。連鎖反応のように千葉県山岳連盟理事、日本山岳協会(現、日本山岳・スポーツクライミング協会)アンチ・ドーピング委員、医科学委員を任されることになり、必要に迫られて卒後28年にして日本体育協会スポーツドクターを取得。現在に至っています。

 私がクライミングを始めた当時から現在に至るまで、スポーツクライミングに関わる整形外科医が国内にほぼ皆無であったことが現在の私の立場を支えていると言って過言ではありません。また上肢特に手指に過大な負荷がかかるこのスポーツにおいては私の専門が手外科であることが重要なキーポイントになっていると思います。

 医科学に携わる一方で、国体山岳競技の千葉県監督業務も行っています。日頃技術指導をしているわけではないのですが、3年前に日本体育協会上級指導員(山岳)の資格を獲得したことから、医務業務もできる監督として重宝がられています。また2年前に日本クライミング医科学研究会を立ち上げ、全国の医師、トレーナーの連携によるクライマーの医学的サポートを模索しているところです。クライマーにおけるスポーツ障害の実態は全く未知の領域であり、各障害の病態、適切な治療法、予防法を解明していくのは気の遠くなるような仕事ですが、全国同志のサポートもあって少しずつ成果が出ています。

 専門臨床を続けて25年目、50歳になってから想像もしていなかった大きな変化がありました。新しいことに目を向けることをしなければ、スポーツ医学に関わることはありえませんでした。若い先生方にお伝えしたいことは、自分の専門に執われることなく自由な感性でその時々の思いで活動のエリアを広げていっていただきたいということです。2020年東京オリンピックに新たに採用される野球ソフトボール、サーフィン、空手、スポーツクライミングそれぞれの競技に深く関わる同門がいることは大いに励みになります。今後ともよろしくご指導のほどお願いいたします。